たまーに「赤ちゃんや幼児になったつもりで英語を学ぼう!」「母国語と同じように外国語を習得しよう!」と聞くのですが、実際にヒトが母国語を習得するプロセスってどうなってるんでしょうか?
当然ながら幼児には戻れないですし、何らかの疑似環境を作って長時間そこに浸る必要がありそうです。じゃあ、具体的にどんな環境を作って、そこで何をすればいいのか?って話なんですが、なかなかイイ感じにまとめてくれてるものがなかったので、言語習得に関する研究を漁っておりました(このあたり↓↓↓)
- ヒトは母国語をどうやって習得する?
- 本人は無意識だけど何が成長している?
- 母国語習得と外国語習得の違い
- 大人の知識と経験が外国語学習に与える影響
で、参考文献を飛びまくって何かもう底なし沼になってきたので、ここまでで溜まったものを一旦メモしておきたく。結論は、目次からどうぞ!
子どもの「言語習得の4段階」と「認知発達」の関係
認知と言語処理能力の関係性を解明して、学生の学習段階に合った教師のアプローチを考察しよう!っていう研究(1)では、子どもの「言語習得」と「認知発達」をそれぞれ4段階に分類しています。
言語習得の4段階
- 前言語期(~1歳):音声と音声パターンを認識し始める。
- ホロフレーズ期(1歳~2歳):一つの単語を使って考えを表現する。(「ごはんを食べたい」という意味で「まんま」と言うなど)
- 二語期(2歳~2歳半):2語を組み合わせて使うようになる。(「ごはんを食べたい」という意味で「まんま・いる」など)
- 初期文法期(2歳半~3歳以降):文法構造化した簡単な文を話し始める。
3歳以降は、理解できる文法が少しずつ複雑になっていき、またより正確に構文を使えるにようになっていきますが、それ以外にも言語の各側面(語彙や発音、意味、語用論など)も高度に発達していきます。さらに、以下の認知発達がどのステージにあるかも発達要素として大きく影響するとのこと。
認知発達の4段階(ピアジェの認知発達理論)
- 感覚運動期(出生~2-3歳):感覚と動作を通じて周囲を理解する。
- 前操作期(3歳~6-7歳):直感的に物事を理解し始める。
- 具体的操作期(6-7歳~11-12歳):論理的な思考が発達し始める。
- 形式的操作期(12歳以降):抽象的な思考も可能になる。
乳幼児は、五感で物や概念を認識するところから始まって、自分の存在に気づき、自分の視点が他者の視点が異なることに気づき…と自身の成長とともに徐々に視野や思考力を広げていきます。
要は、使える単語や文法が広がっても相互的に対話できなかったり、比喩や抽象的な表現が理解できなかったりするわけで、認知発達が追いついてこないと言語能力の成長にも限界があるというわけです。
仮定法も「もしも…(仮)」って概念があるからこそ使えるわけで。
ということで、元の論文(1)では、「教師は子どもの認知発達段階を考慮しながら、言語教育のアプローチを調整することが重要だよねー」と結論付けになってます。具体的操作期の子には、具体例や実体験を通じて言語を学ばせるのが効果的だし、一方で、形式的操作期に入っている子たちには、(抽象的な議論をするなどして、)言語能力を発展させる機会をちゃんと与えるべきという。
ネイティブも実用的な言語習得には10年かかる件
子どもの脳は柔軟で吸収が早い!言葉もすぐに覚えちゃう!とはよく聞きますが、実際には認知や身体の発達とともにじっくり時間をかけて言語を習得しています。
言語習得が完全に成熟する時期を特定するのは難しいですが、10歳前後で基本的な母国語の構造がほぼ完成することから、日常的な会話や文章の読み書きも同時期にほぼ習得されると考えられます。
一方で、「学術的な文章の読み書き」や「説得力のある議論の展開」といった高度な抽象的・論理的思考は、青年期から成人期(12歳以降)まで発達を続けますし、より社会的・文化的な語用スキルは年齢と経験とともにさらに洗練されていきます。他者への気遣いやビジネスシーンでの言葉遣いも経験してこそですし、この辺りは一生を通じて発展していく部分ですね。
私たちが新しく言語を習得する際に目標とする言語スキル(コミュニケーション能力も含む)は、ネイティブの7~10歳あたりでしょうか。文法や文章構造をほぼ押さえ、語彙に差があるにも関わらず大人ともしっかり会話が成立するレベルです。
こう聞くと、ネイティブの子どもたちだって言語習得にめちゃくちゃ時間かかってますねー。筋肉や感覚器、自我が発達する3歳くらいまでの期間を抜いても、基本的な言語運用スキルを養うのに4~7年は要するわけなんで、大人なら学習の進め方次第ではもっと効率良くいけそうな気もします。
子どもが無意識に母国語を学ぶ暗黙的学習とは?
しかしながら、子どもたち本人は知らず知らずのうちに言語を習得してるのが羨ましいところ。これが再現できるもんなら4,5年かかってもいいと不純なことを考えるのが知識経験認知の成熟した大人です。
明らかな指導や学習意識がないまま、ヒトが自然に言語を習得することを暗黙の言語学習(Implicit language learning)と言います。この暗黙学習は、生涯を通じて継続するプロセスであるものの、特に子どもが母国語を習得する際に顕著に見られるそう。
幼少期の暗黙的な言語学習
- インプットの蓄積:周囲の人々の話す言語を大量に聞くことで、言語の基本的なパターンや構造を無意識に学ぶ。具体的な文法ルールを教わらなくても、使用例を何度も見聞きして言葉の使い方を自然と理解する。
- 意図の読み取り(2):単語そのものだけでなく話し手の意図や感情、文脈を推測し、それを手掛かりに言葉の意味を再構築する。同じ「やめて」という言葉でも、相手が怒っているのか、単に冗談半分で言っているのかを判断する。
- パターンの発見(2):単語や断片的な音からパターンを見つけ、それを自分の中で意味のある文に組み立てる。例)「犬が走ってる」という文を聞いて、「犬(単語)」と「走る(行為)」の繋がりを認識し、他の動物や状況にも応用する。
- 周囲からのフィードバックと修正:子どもは周囲からのフィードバックを通じて、言語使用の誤りを修正する。親や養育者などが文法的な間違いを訂正したり、正しい発音や言い方のモデルとなったりして、徐々に文法規則に沿った言語使用が強化される。
形式的な「勉強時間」は設けられてはないものの、自然な形で言語インプットや発話練習ができ、さらに周囲からフィードバックや指摘を受けるなど、幼児期は暗黙的学習を促進する教育環境が整ってますね。
ちなみに、上記の「パターンの発見」の中には、文法や文構造のルールも含まれています。文法そのものを説明することはできないけど、インプットしたパターンに当てはまるかどうかで正誤判断ができるようになっていってるんですねー。
親や周囲の大人も子どもの語彙力や理解度に合った言葉選びをするので、ちゃんと簡単な基礎文法から順序良く着実に習得していけるわけです。
なんとも羨ましい…
認知が成熟した状態で始める言語学習の課題
大人は認知が成熟しきった状態での学習スタートとなるので、最初から複雑な文章を解読したり、抽象的で理論的なコミュニケーションを取ったりすることもできるんですが、それが逆に悪さをしている模様。
- 知識と経験:複雑な文法構造や難関語彙を理解できてしまうがゆえに、個々の単語や文法に注意を払いすぎて、全体のパターンをつかむことが難しくなることがある。
- メタ言語意識:言語を分析したり、文法事項や使い方を反省したりする能力が高いと、ミスを恐れたり、不安を感じたりする原因にもなりうる。
深く思考できるから悩み、知識が多いから選択に迷い、選択肢があるからアレコレ手を出し、結果的に広く浅く、不自然な順序での学習に繋がっちゃうんでしょうな…!
幼児の学習プロセスを大人が再現する難しさ
この時点で、子どもが母国語を習得するのと同じ方法で、大人が新しい言語を習得するのはほぼ不可能に思えます。認知や身体的な発達を除いても、幼児と同じ条件や環境を整えるのは、誰にでもできることではなく非現実的です。
さらに、子どもは大人よりも隠れた言語ルールに対する感度が高く、使いこなす能力にも長けていることを示した研究(3)もあります。要は、見聞きした言葉からリアルタイムでルールをすばやく抽出し、そのルールを新しい単語や状況に応じて適切に使用できるとのこと。
このあたりは、大人が間違いを恐れたり、計画通りに進捗が見えなくて不安やイライラを感じたり、モチベーション次第では学習が簡単にストップしてしまうメンタル面の差が大きい気がします。知識・経験のほか、言語を学ぶ目的も明確にあるでしょうし、「完全な無意識」になれなさそう。
大人が外国語を暗黙的に学ぶのに効果的な学習アプローチ
というわけで、大人は「無意識な言語習得」ができる環境を「意識的に」作る必要があります。子どもが母国語を習得する方法とは異なりますが、暗黙的言語学習のプロセスを大人や第二言語に適用すること自体は可能です。
明示的な指導なしに、自分で言語パターンに気づけるようになるには?
- 没入感のあるインプット環境を作る
- 理解可能な範囲での読解とリスニング
- 文法の正確さよりも、コミュニケーションの成功を重視する
これといって特殊なメソッドはなし。マルチリンガル(多言語話者)の方が新しい言語を学ぶ際のポイントとして、必ずと言っていいほどこの3つは出てきますし、「母国語のように外国語を学ぶ」「子どものように英語を学ぶ」ってのはもはやコレが答えな気がします。以下、各項目の補足を。
没入感のあるインプット環境を作る
暗黙学習の基本はやはり大量のインプットから。下記のような方法があります。
- ターゲット言語が話される国で生活する
- 言語学習の集中プログラムに参加する
- 趣味やエンタメを活用して言語に触れる機会を増やす
新しく学ぶ言語に囲まれる環境に長時間かつ継続的にひたるのが理想ですが、これがなかなか計画しても計画通りにいかないんですよねぇ。
初日からいきなり1時間リスニングしたり、日本語でも読書習慣がないのに、英文学に挑戦したりして挫折してやめちゃうってのはあるあるな話。言語学習の習慣があまりない人は、1日3分とかでもいいので、苦痛のないところから始めましょう。最初は実施しさえすればクリアで、慣れてきたら5分10分15分…と徐々に時間を増やしていく感じ。
最近は、新しく習慣化させたいことがあれば、下記『モーニングメソッド』で紹介されているフレームワークに組み込むようにしてます。
理解可能な範囲での読解とリスニング
せっかくなのでインプットの質にもこだわりましょう。理解可能なインプット(Comprehensible Input)とは、第二言語(L2)を学ぶ際、学習者が少し努力をすれば理解できる難易度のインプットのことです。
未知の単語のみで構成されている文章は何度聞いても雑音ですし、単語の意味が明確にならない限り読み解けませんが、たまーに未知の単語や言い回しがあるくらいのレベルなら、文脈や絵、ジェスチャーなどを手掛かりに内容を推測しやすくなります。
- 読書:学習者向け短編集から始めるとレベル調整をしやすい。身の回りの単語や表現をイラストから学べる絵本やオーディオブックもおすすめ。
- 実生活での会話:ネイティブスピーカーに少し簡単な言葉やフレーズを使った会話をしてもらう。幼児の場合は、周囲の大人が気遣うことで自然とこの状態になっている。
- テレビ番組、ポッドキャスト:学習者向けのニュース番組など、視覚や音声のヒントが豊富なメディアを利用する。
未知の単語も何度か見聞きするうちに「あー、こういう意味なのね」「こういう文脈でよく使われるんだ」といった感じで徐々に語彙の雰囲気やルールがわかってくるので、それを信じて一旦その場では「ナントカ理解しよう!」「推測しよう!」って姿勢を保ちましょう。
どうしても内容理解が追いつかない場合は多少調べてもいいかと思いますが、自信のない単語や未知の表現が出てくるたびに調べてると時間を食いますし、それよりも繰り返し触れる回数を稼ぐ方が暗黙学習には大事。
かく言う私も、すーぐ単語の意味が気になってソワソワしてしまうのですが。読書中はチャプターを読み終えるまでは我慢して、そのあとまとめて答え合わせしてます。
文法の正確さよりも、コミュニケーションの成功を重視する
これ、文法を勉強すんなってことじゃなくて、少なくともコミュニケーション中は相手の言語を理解しようとし、伝えようとすることを優先しようって意味です。理論を学んだ上で、コミュニケーションという経験を通じて活用の定着やブラッシュアップをしていく感じ。
ちなみに、「文法を学ぶ」ってのはメタ言語的に説明できるようになる必要はなくて、英文の意味(日本語訳)から何となく雰囲気で掴めていれば大丈夫です。
たとえば、should have ~edであれば、「~しとけばよかった」という日本語訳が浮かべば、次に進んでOK。「えーと、これは仮定法過去完了だから現実にならなかった過去で…」みたいな理論って生活で全く使われない実用性ゼロ知識なので。
昔の私がコレだったのですが、コミュニケーション中に毎回頭の中で文法ルールや用語を思い出して確認する癖がついちゃうとマージで厄介です。
ちなみに、暗黙的学習にこだわるなら…
勉強といった勉強はせずに以下をひたすら繰り返すことになりますが、
- 周囲の音を大量にインプットして言語パターンを発見
- それを実際のコミュニケーションに持ち込んで使ってみる
- 相手の反応(意図した通りの意味・ニュアンスで伝わったか、違った場合どう伝わったのか)や指摘を通じ、語彙やパターンを修正する
- 上記を繰り返して正しい言語パターンを定着させる
移住でもしない限りは、常にネイティブ同士の会話が聞こえてきて、コミュニケーションの実践もいつでもできる環境って無いかと…。それに、言語パターンがランダムに散りばめられている実際の会話や文章よりも、文法ルールや構文ごとに例文がまとまってる教材の方がパターンを発見しやすくて学習効率が良いですしね。
というわけで、大人が新しい言語をできる限り暗黙的に学ぶには、「会話やテキストから表現やパターンを学び(インプット)、実際のコミュニケーションで使ってみる(定期的な検証)のをひたすら続ける」のが良さそうっていう結論になりました。(普通~~~~~!!!)
学問に王道なし(=゚ω゚)ノ