文法を「学ぶべきか、自然に身につけるべきか」は文法事項の性質で決まるらしい。

はじめて外国語を勉強するときに、「英文法は使っているうちに感覚で身につけるべきか、先にルールを覚えちゃうべきか」っていうのは学習者が一度は悩むテーマではないでしょうか。

英語学習法の情報を漁っていても「ガッツリ勉強派」も「実践で身につけろ派」、さらには「文法一切不要論」にもしばしば遭遇しますし。

大体こういう話は、個々の学習経験に基づいて語られていることが多くて、最終的には各々が目標達成しているうえでの提案なのでどれも説得力はそこそこあるんですよね。

実践で身につける方法って学習者のモチベーションありきだし、語学が好きで好きでしょうがないって人や圧倒的な目標達成欲がある人以外は、さっさとルールだけ覚えて反復練した方が楽なんじゃね?

かく言う私も、英語に関してはガッツリ文法を勉強した時期がありまして、そこ起点の「文法やってて良かったぁ」っていう個人の成功体験だけを根拠に語ってしまっております。

ということで、個人経験の寄せ集めじゃなくて学術的にはどう結論付けられてるんだ?ってリサーチをしてみたところ、文法項目の性質次第で学習効果が変動しますよーっていうおもしろ結果を見つけました。

目次

文法はハッキリ意識させて指導した方が学習効果が高い

2000年に発表されたNorris & Ortegaのメタ分析(過去に行われた実験研究(1980年〜1998年)を大量に集めて統計的に分析を行うこと)では、「文法は明示的に教えた方が、暗示的(自然に気づかせる)に指導するより圧倒的に速くて効果的である」という結果が出ておりました。

  • 明示的(Explicit): ルールを説明し、学習者に文法を意識させて練習させる。
  • 暗示的(Implicit): 文法説明はせず、コミュニケーションやインプットを通じて自然に気づかせる。

外国語教育の分野では、「文法なんて教えなくても、大量インプットを浴び続ければ自然に身につく」という暗示的指導支持派と、「いや、大人の学習者にはルールを明示的に説明した方が効率が良いでしょ」という明示的指導支持派の対立が昔からずーっとあったようで。

得られた主な結果は…

  • 統計的な効果の大きさ(効果量:Cohen’s “d “)を算出したところ
    • 明示的指導では「d=1.13(⇒効果大)」
    • 暗示的指導では「d=0.54(⇒効果中)」
  • 文脈のない文法ドリルよりも、文脈の中で文法に注目させる方がわずかに効果量が高かった。
    • 文脈有無に寄らず、明示的に教えた方が効果が跳ね上がった。
  • 指導直後のテストだけでなく、しばらく経ってから行う遅延テストでも、明示的指導の効果はしっかりと維持されていた。

効果量(d)の目安として、一般的に0.8 以上で「効果が大きい」と判断されます。明示的指導の 1.13 という数値は、教育研究においては「劇的な効果がある」と言えるレベルだそうな。

ということで、上記の結果からこの研究では「明示的指導の圧勝!!」と結論付けられました。

ただし、このメタ分析では対象となった多くの研究で使われていたテストが、文法選択問題や穴埋め問題など、「文法を考えれば解けるテスト」だったため、「明示的に文法を習ったグループが、明示的な文法知識を測るテストで良い点を取るのはあたりまえでは?」という指摘がありました。

それは確かにそう

また、「実際の英会話でとっさに正しい文法が使えるか」という観点では、このメタ分析だけでは完全に証明されたとは言えないという批判もあるようです。そこは別に明示的だろうが暗示的だろうが完全にはカバーしきれんだろうと思いますが、とにかく「効果」の測り方がペーパーテストだけってのがツッコミどころなんでしょう。

というわけで、上記の反論を踏まえてこの分析を改めて結論付けるとしたら

文法はハッキリ教えた方が、少なくともペーパーテストなどの正確性を高める上では、自然に気づかせるより圧倒的に速くて効果的である

英会話ってなると、文法以外の要素が入ってくるんで、純粋な学習効果を測りにくいですし、どうしてもペーパーテストになっちゃいますなぁ。スピーキングも「テスト」ってなった瞬間に傾向と対策が出てきちゃいますし。

文法項目の性質によっては、暗示的指導法が有利になることがある

2000年に「明示的指導の圧倒的勝利」が発表されてから15年が経過したことを受け、新しい研究も含めて再検証しようじゃないかと行われた2015年のメタ分析では、新たな調整変数「文法項目の性質」が確認されています。

この研究では、「明示的文法指導(ルールを教えて練習させる)」と「暗示的文法指導(自然な使用の中で気づかせる)」を直接比較した研究のみを対象として、34件の研究(うちNorris & Ortega(2000)から引用の11件 + 新規23件)を統合・分析しています。

2015年の更新結果

  • 全体としては、明示的指導の方が暗示的指導よりも中〜大程度の効果量で学習成果が高い傾向が再確認された。
  • ただし、効果は対象とする文法項目の性質によって変動するという調整変数が確認されている
    • スコープが狭く、規則が明確な文法項目では明示的指導が特に有利。
    • スコープが広く、規則性が低い文法項目、また母語と類似した項目では暗示的指導でも差が縮まる、場合によっては逆転する。
  • 一部の新しい研究では、遅延事後テストで暗示的指導群が明示的指導群を上回るケースもあった。

ということで、2015年版の研究では、総合的には明示的指導が変わらず有利なものの、文法事項と効果測定のタイミングによっては「暗示的指導」が有利になるケースがあるぞ!!という結果となっております。

文法項目の「スコープが狭い/広い」ってのは、言い換えるなら、一つの文法ルールにおける「汎用性が低い/高い」「例外が少ない/多い」を表してる感じです。

明示的指導が有利になる文法事項について

英語で言うと「三単現のs(=動詞の語幹に-sつけ、もし語幹がsで終わる場合は-esをつける)」のように、ほぼ例外のない単純明快なルールを持つ文法事項は明示的指導が有利です。ランダムな例文をいっぱい見聞きして気づかせるよりも、さっさとルールを教えた方が効率的ですよね。

同様の例として、複数形の-s、所有格の’s、規則動詞の過去形-edなど、形態素1つを機械的に付加するだけのルールは圧倒的に明示的指導が有利です。

暗示的指導で差が縮まりやすい文法事項について

たとえば、英語話者が第二言語として日本語を学ぶ際、いくら「てにをは」を理論立てて学んでも、それだけでは機械的に正解を導き出すことはほぼ不可能でしょう。

同様に、英語であれば、平叙文からの変換が何段階にも及ぶようなwh疑問文、単純な「型」を1つ覚えれば済むってもんじゃない関係詞節やif条件文、文脈に応じた使い分けの幅が広いto 不定詞や動名詞は、ルール暗記だけでは対応しきれないことが多いです。自然な使用例に触れて感覚を掴むといった暗示的なアプローチも必要になります。

ただこれ、暗示的アプローチの価値が”相対的”に高まるというのがポイントで、大枠では従来の結論「文法は明示的に教えた方が良い」が支持されることに変わりはありません。

ただ英語のシャワーを浴びて、何も残らずに溺れるのも悲しいし

ということで、「まず最小限のルールを頭に入れ、それを実践的なアクティビティで使える形にしていく」というハイブリッド戦法が、今のところ最も現実的でコスパがいいんじゃないでしょうか。

英語の後に、第二外国語としてオランダ語を習得中であり、また他のヨーロッパ言語をたまにカジってみての今ですが、個人的には、基本的な文が読めるくらいの文法知識(と語彙力)がついたら、実践(読書やコンテンツ鑑賞、コミュニケーション)に切り替えて、あとはそこで詰まった都度学んでいけばいいかなーという結論に落ち着いてます。

文法知識が欠落していて(、または間違えて覚えていて)詰まったのであれば、そこを学んで知識をアップデートすればいいし、文法も語彙も知っていたのに詰まったのであればトコトン実践を積めばいいのかなと。どうぞ気負わずよしなに。

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